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競馬コラム

心地好い居酒屋

2019年10月23日(水)更新

心地好い居酒屋:第76話

“4日競馬”の最終日となった15日。テレビは台風19号の被害状況を具(つぶさ)に伝えている。遠野は思い当たる場所の近くに住んでる友人何人かに安否の電話をかけた。逆に九州や北海道から横浜を気遣って電話をくれる親戚、友人がいる。罹災者には申し訳ないが、関係者に大きな被害がなかったことに安堵した。

喫緊の心配がなくなったせいもあって、11日発売の「優馬」を広げ、新馬戦4R前にテレビをGチャンネルに合わせた。途端に携帯が鳴った。見ると「わいわい旅行」の飯野だ。

「おう飯野君。久しぶり。台風は大丈夫だったか」「あ、遠野さん。ご無沙汰してます」。静かな神妙な声で挨拶した後、「実は…。昨日(14日)森山(専務)が亡くなりまして」「えっ!」。沈黙があった。「どうして?原因は?事故か?」。遠野が矢継ぎ早に質問した。

「いえ。自分にも訳が分からなくて。最近腰を痛がり、鎮痛剤を服んではいたのですが、連休前の11日に『我慢できない』と訴え緊急入院したとか。ええ、奥様から連絡をいただいて。見舞いに行こうにも12日は電車が動いてなくて、詳しいことは…。ただ医者からは“心不全”と言われたそうです」「んなもん。死ぬ時は“心不全”だよ!そうなった原因を知りたいんだよ」。涙声の飯野に何の罪もないが、思わず声を荒げていた。「ごめんごめん。ところで式次第はどうなってんの」。少し冷静になった。

「お通夜が18日の18時からで告別式は19日の11時。場所は所沢です。詳細はファックスしますので自宅の電話番号教えて下さい」。要領を得た返答をする。「手間かけて悪いね。他の人はラインかなんかで連絡できるのに」「とんでもない。よろしくお願いします」 電話番号を告げ電話を切った。<参ったな。俺の健康を心配してくれてる奴が次々と俺より先に逝きやがって>。ほどなくファックスが流れてきた。

 訃報― 森山 勝利儀 に始まり事務的な文字が羅列されている。<67歳だ。この紙切れ紙切れ一枚で終わっちゃうのか>。ふざけた話だが事実を受け止めざるをえない。

  少し落ち着いた所で井尻達に連絡を入れ、飲み会のキャンセルを告げた。さすがに親爺もビックリでシンミリだ。「森山さんがねぇ」と呟き「お通夜は行けないけど告別式には参列させて貰うよ」と。「有り難う。俺は朝がきついから、お通夜の後、所沢に泊まる積もり。そうだな、当日は10時25分に所沢駅で待ち合わせしよう。じゃあ土曜日に」

 18日。遠野は所沢に向かう途中、新宿に寄り「菊花賞」のカブ馬券、つまり①⑧ ②⑦ ③⑥を1000円づつ、④⑤だけ2000円買った。森山さんが競馬に参加するのは昔から八大レースだけ。今も枠連だ。④⑤だけ多いのは<5000円でキリがいいのとウチの実家は真言宗のお寺。ホラ〽真言「④⑤」宗はお寺のカブ〽って言うじゃん>だかららしい。バチ当たりではあるが、その時の得意げな笑顔が懐かしい。

 所沢は冷たい小糠雨だ。受付を済ますと「わいわい旅行」の連中に案内され席に着いた。そこへ飯野が近づいてきて「お疲れさまです。今日は最後までお付き合い願えますか。奥様も話されたいとのことで」と。否も応も無い。「その積もりだから」

 読経が始まった7時には室内はいっぱい。外に人が溢れている。10分経った頃から遺族、親族の焼香が始まり、それが終わると焼香台の火舎(かしゃ)は3から5台に増えた。焼香客の多さと時間を見計らってのことだろう。遠野は7時まで室内で着席。焼香客が途切れたのを確認してお清めの部屋に移り、遺族と「わいわい旅行」の連中を待った。

 親爺は予定通りの電車に乗ったようで、翌朝は難なく駅で合流。そのままタクシーで斎場に向かった。「雨も上がって良かった」。親爺は意味もない言葉を吐き「まさかなぁ。で、死因は」「うん。一言ではなんとも…。すぐ着くし、帰りに説明するよ」

 告別式の弔問客はお通夜に負けず劣らずの多さで、火舎も最初から5台用意されていた。流れ作業で12時過ぎに出棺、見送った後、親爺が「人柄か顔の広さか、人が多かったなぁ」「現役だったしな」。遠野が応じ、どちらからともなく「帰るか」と。

 年寄り2人の会話は電車の中では聞き取りにくい。「あっという間に着くし池袋で寿司でも摘まもう」の遠野に「いいね」と答え、互いに黒ネクタイを外し目を瞑った。30分後に駅近くにある寿司屋のカウンターに腰を下ろした。

「雁木」の大吟醸が有ったが酒は四合瓶での“売り”はしてないと。仕方なくグラスで注文。肴は親爺の係だ。「まずは小鰭とヅケ、後はお薦めの盛り合わせを頼むわ」。酒はすぐ届いた。「とりあえず献杯だな」。グラスを上げ、一口飲んだ後、遠野が口を開いた。

「結論は肝臓癌だが、俺は薬害に等しいと思う」。聞いた親父は小鰭を摘まみながら怪訝そうな顔で遠野を見る。「腰が痛かったのは“急性膵炎”が原因。森山さんは肝臓癌はもちろん膵炎なんて全く考えず整形外科に行ったらしい。そこで鎮痛剤を処方して貰った訳だ」「薬、服み服み出社してたの」「みたいだね。締め切りも近く、部数と広告減で親会社を含め上からのプレッシャーは相当だったと思うぞ。ストレスは特に胃と膵臓にくるからな。胃潰瘍と膵炎経験者の俺が言うんだから間違いない」。ピシッとした言い様に親爺、ピンと背筋を伸ばした。

「その時点で肝臓癌は判明してない訳でね。聞くと外国製の鎮痛剤を2週間も服み続けたらしい。結果、連休前に激痛に襲われ、意識は混濁。意味不明な声を出すようになり、慌てて救急車を呼んだって」。喋りには怒気が含まれている。「……」「緊急の精密検査をしたら肝臓癌だと」。悔しそうに伝え冷酒を呷り「俺の知り合いに肝臓癌で亡くなった人が何人かいるが、ほとんどが末期で手術後。その内の一人が最後の最後に森山さんと同じ症状に見舞われたんだ。確か“肝性膿瘍”といったっけ。つまり口から入れた物を肝臓が処理できなくなり、排泄されるべき毒素が脳に達して、意識が混濁、『わぁわぁ』奇声を発するだけで…」「ふ~ん。森山さんは癌とは知らず、すでに手の施しようがなかったってことか」

「素人考えだが、それもこれも鎮痛剤の副作用じゃないかと」「そうだよな。いくら沈黙の臓器といっても、あまりにも急だもんな」

 そこまで言ってグラスを手にしたが、いつの間にか空になっていた。顔を見合わせ「うん」と頷きお代わりを頼んだ。

「ところで『菊花賞』は何?」「親爺も知っての通りで森山さんが買うのはいつも“カブ馬券”だから、昨日のうちに買って飯野君に預けているんだ。『当たったら遺族に配当を渡して』と言ってね。俺は“ケントク買い”はしないし、今回は森山さんの馬券を応援するよ」




源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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